国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は本日、ALPS(多核種除去設備)処理を施した東京電力福島第一原発の放射能汚染水について、日本政府が、早ければ8月24日から太平洋への放出を開始すると決定したことを受け、以下の声明を発表しました。

グリーンピース・ジャパン プロジェクトリーダー、高田久代

「日本政府および東京電力が、漁業関係者や住民、太平洋地域や近隣諸国の懸念を押し切る形で、放射性物質を含む処理汚染水の、意図的な環境中への放出開始に踏み切ったことに、強い失望と憤りを感じます。

放射性廃棄物の海洋放出は、福島第一原発の廃炉計画の失敗を浮き彫りにしています。海洋放出すれば終わりではなく、汚染水は今後何年間にもわたって増え続ける一方、それを止める有効な手段はないままです。日本政府と東京電力は、廃炉のために海洋放出が必要と主張していますが、その廃炉までの現実的な道筋とその最終形は、事故から12年以上たった現在でも、いまだにはっきりとしないままです。

放射性廃棄物の放出による意図的な海洋汚染は、日本の数十年にわたる原発政策が行き着いた結果です。日本政府は、現行計画では廃炉が進まず、原子力危機が継続し、何兆円もの公的資金が必要であることを認めるどころか、大地震やその他の安全上のリスクがあるにもかかわらず、さらなる原発の再稼働を目指しています。あまつさえ、政府は脱炭素を名目に、新たに打ち出したグリーントランスフォーメーション(GX)戦略で、原発の再稼働、運転期間の延長、新型革新炉の開発推進を掲げるという誤りを犯しています。

原発は事故や自然災害により頻繁に停止し、火力発電のバックアップ電源が必ず必要となり、温暖化対策にはなりえません。政府や電力業界がすべきことは、廃炉を棚上げにして汚染水を放出するのではなく、汚染水放出計画を凍結し、廃炉そして原子力政策という根本的な問題の解決を図ることです。そのためには、原発と化石燃料に今後も継続して頼り続ける既存のエネルギー政策に別れを告げ、エネルギー効率を更に向上させ、人と環境と地域と共生できる再生可能エネルギーへの可能な限り早期の転換以外ありません」

グリーンピース東アジア 核問題スペシャリスト、ショーン・バーニー

「日本政府は、廃炉のために放射能汚染水の海洋放出が必要と説明していますが、実際には水を貯蔵するのに十分な貯蔵スペースがあり、政府自身もそれを認めています(注1)。汚染水の長期保管は、つまり現在の廃炉ロードマップの欠陥を認めることになりますが、それこそが原発事故収束に必要なことなのです。福島第一原発は依然として危機的状況にあるにも関わらず、信頼できる廃炉計画はないままです。

IAEAは日本の海洋放出計画を支持しましたが、ALPSの運転状況は調査しておらず、放射能汚染水を生み出し続けている高レベルの燃料デブリについて触れていません。さらに、周辺国に重大な越境被害をもたらす危険性があるにもかかわらず、国際的な法的義務で義務づけられている包括的な環境影響評価を実施していません。

一方、ジュネーブの国連人権理事会の加盟国や国連特別報告者は、日本の放出計画に反対しています。(注2) また、計画は、清潔で健康的かつ持続可能な環境を持つことが人権であると定めた、2021年の人権理事会決議48/13(注3)に反しています。さらに、日本は、近隣諸国への越境的な重大な危害のリスクを考慮し、太平洋への排出について包括的な環境影響評価を実施する法的要件を含む、海洋環境を保護するための国連海洋法条約(UNCLOS)の法的義務を遵守していません。

海洋環境は、すでに多大なストレスにさらされています。数十年にわたる意図的な放射能汚染は、完全に誤った解決策です。これは、福島の人々をはじめ、海の環境に関わる多くの人々の人権を侵害する暴挙というほかありません」

以上

(注1)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書(2020年2月)

(注2)国連人権理事会 Japan: UN experts say deeply disappointed by decision to discharge Fukushima water

(注3)国連総会、清潔で健康的な環境へのアクセスを普遍的人権と宣言(2022年7月)

(注4)“Japan’s plan for radioactive water defies international law”, Duncan E.J. Currie and Shaun Burnie, July 2021

以上