こんにちは。食と農業問題担当の関根です。

みなさんの給食の思い出は何ですか?

愛媛県今治市は地産地消、有機農産物の給食を通して、子どもたちの食育や地元でお金が回る仕組みづくりを進めていて、いま注目されている地域の一つです。現地を訪ねてのインタビューを3回にわたってお届けします。

農学部を出て、熊本や埼玉の有機農業の現場で学び、故郷の市役所職員となった安井さん(中央)。地産地消や有機の学校給食について、「地産地消と学校給食」という著書も出しています。

今治で地元の有機農産物を給食に取り入れるきっかけは、小学生の子どものいるお母さんたちの運動だったといいます。それを市役所側で受けとめ、市内のさまざまな人や資源を結びつけてきた仕掛け人が、現在今治市玉川支所長の安井孝さんです。支所を訪ねてお話を聞き、産直のお店を案内していただきました。

 

質問・・・(聞き手:グリーンピース)

答え・・・(安井さん)

 

【食べる人の声がいちばん大事】

グリーンピース:給食に有機農産物を使用してほしいという希望は他の地域でもたくさん聞きますが、どうすれば市民からの声が行政に届き、取り組もうという動機になりやすいのでしょうか?今治市でも、保護者たちの働きかけがきっかけでした。

安井さん:一番大きいのはPTAなど、給食費を払っていただいている人達からの意見です。
行政側は、食べる側、お金を払う側のニーズに答えなければなりませんから。
保護者の皆さんが、給食費は10〜20円上がっても有機ものを子ども食べさせたいと言ってきたら、市も動きやすいですね。市議会にしても、食べる側が求めているものが、安全でおいしくて子ども達にも良かったら、反対する理由はないでしょう。
給食と関係ない人が、食べろといって押し付けるより、食べる側が食べたいというのが誰もが納得しやすいものです。

今治では、学校給食を地元の農産物中心の有機にしたいと思った保護者の皆さんがPTAに働きかけ、PTAが中心となっていろんな団体も一緒になって議会へ声を届けていきました。

お母さん達が市長に掛け合って、市長と一緒に有機農産物の生産現場に視察に来てくれたこともありました。行政のトップが、「ああそうだなあ」と思ってくれたら話は早く進みます。そこにもし、超熱心な栄養士さんがいてくれたりすると、調理現場での取り組みには心強いですね。

その後、今治では、これを一過性のものにせず、生産も食育も地域とともに達成していくのだということを明確にするため、「今治市食と農のまちづくり条例」を作りました。

この条例では、市は、学校給食での今治産の有機農産物等の安全な食材の使用割合を高めること、また、遺伝子組み換え作物及びその加工食品を使用しないこと、そして、他の市の関連施設においても安全な今治産の食材の使用に努めることなどを定めています。

現在の地産地消の割合は、米は100%市内産特別栽培米、パンは80%が市内産小麦のパン、豆腐もほぼ市内産特別栽培大豆で作っています。野菜は重量ベースで市内産有機が4.1%、市内産が56.6%、県内産が7.8%となっています。

保護者の方も概ね賛成です。給食費が上がるのはどうも、という人も、内容が良くなるなら上げても構わないという人もいます。子どもがアトピーで、食への関心が高い方もいる一方、夏休みで40日間も自分の家のご飯だけだと栄養が心配だから、夏休みも給食を出してほしい、とか、朝ごはんも是非という希望まであります。

 

【有機の給食と地域づくりはつながっている】

グリーンピース:PTAからの声というと学校単位になる場合が多いと思いますが、1校だけの要望でも対応できるのですか?

安井さん:今治市は校区内で調理場を持っている所が多くて、そこには校区の農家がいます。
PTAと校区の農家と栄養士と教員による「学校給食懇談会」を学校ごとに作っています。懇談会で話し合って、有機にしようねって、みんなで決めれば動き出せます。地域全体で動きやすくなっていれば、1校だけでも対応が可能になります。

そうなれば行政が、表立って音頭を取るより、地域で鍵になる人たちが動きやすいように裏方に回るくらいがいい。PTAが有機を食べさせたいという声を上げ、学校や調理場が動きだした、これ(役所が登場しない)がいいと思っています。

有機のもの食べたいから、最初から一度に全部有機に変える、というのは無理ですが、ここで「だからできない」と考えないことが重要です。



まず、一品から、例えばじゃがいもから始める、というところから始めるのがコツです。

長年の農家でも有機で作るのは初めてという場合もありますから、最初はじゃがいもだけ、たまねぎだけ、というところから始めてみて、うまくいったらまた次にという風にクリアしていくのです。じゃがいも、たまねぎ、にんじん、キャベツは年間通して給食に使われていますから、どれでもいい、農家さんに決めてもらって実験するんです。
住民が500人規模の地域には、変わった農家の一人や二人はいるのでね(笑)。そういう農家に一歩踏み出してもらう。

グリーンピース:実行していくためには農家さんとの対話が不可欠ということですね。

 

【ネオニコもやめていこうとしています】


グリーンピース:ネオニコチノイド系農薬の使用もやめているんですか?

安井さん:今治市では、ネオ二コチノイドが主成分で、米でも野菜でも使っているアドマイヤー※という農薬をやめる根回しを始めています。
(※アドマイヤーは有効成分にネオニコチノイド系のイミダクロプリドを使っている殺虫剤の商品名です)

グリーンピース:今治市では特別栽培米にもアドマイヤー(イミダクロプリド)は使用していますか?

安井さん:田植え後の田んぼでは使用していませんが、育苗段階で苗箱に使われています。せっかく有機を謳っている町ですから、脱ネオニコチノイドも進めていきたいのですが、かなり抵抗が大きいですね。
営農指導員さん達にも協力してもらいながら、地域のキーパーソンに仲間になってもらって、進めていくのがカギです。

行政は、残留農薬を調査して、もし農薬が出なければ(あるいは基準値以下ならば)それで終わり、としています。でも、農薬を散布した後に分解して他の毒性物質に変わっているということまでは調査していません。ネオニコチノイド系農薬もそうです。
そうした危険に対する声も、保護者から上げて欲しい。行政は上げて欲しくないかもしれないが、僕は上げてほしい。

 

【気になる農協や小売店との関係は...】

グリーンピース:ところで、農協、JAさんとの関係は、どういうところに気をつけているんですか。

安井さん:あまり、気は使ってないですね。
でも市場と八百屋さんには気を使いますね。給食が有機になると当初はやはり八百屋さんの売る上げは減るのでね。
でももう解決しています。給食では、生産者さんからだけじゃなくて、八百屋さんからも買いますから。八百屋さんも有機のものがあったら優先して買いますよ、だから八百屋さんも有機のものを仕入れ来てくださいということにしています。

グリーンピース:そこに至るまではなかなか大変だったのでは?)

安井さん:結構...二年ぐらいかかっています、八百屋さんとは。

 

グリーンピース:農協は農薬と化学肥料を農家に売るのを経営の中心にしているから、有機や無農薬には反発があると、とよく言われますが、いかがですか?

安井さん:もうそんな時代ではない。そんなこと言っていたら農協はなくなります。
TPPがこんなことになって、規制緩和をして、農林中金と全農をつぶそうと言う風に動いているのに、「いや、うちは農薬売らんと」なんて言ってる農協が一目おかれるはずがないのです。
時代錯誤も甚だしい。せいぜい農薬も売るけど有機もやるよ、くらいしていかないと。そしてやがては、全部有機にしましたよ、くらいやらないとTPP後の輸入農産物相手に勝ち残れるわけがない。「外国の有機の方が安くて安全じゃないか」ってことになったら国産といえども勝ち目はありません。

 

続編は <その(2)TPPでも国産有機なら勝てます>です、お楽しみに。

 

スーパーや生協が変われば、有機はもっと増える!

農家さんと消費者をつなぐスーパーが、その気持ちに気づいて、有機の取り扱いを増やしてくれれば、日本でももっともっと、有機が増えていきます。

スーパーや生協を変えるには、そこでお買い物をするわたしたち消費者の思いを、届けて、有機を選びたい消費者がこんなにいるよ!ということをアピールすることが一番、効果的です。

みんなで、スーパーに「有機の取り扱いを増やして!」と声をあげましょう。

「有機を増やして!」 いますぐ署名 >

 

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