こんにちは、海洋生態系担当の花岡和佳男です。現在福岡で行われている「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第9回北小委員会(NC9)」も今日で3日目、いよいよ大詰めです。明日最終日は書類上での加盟国政府による合意がされる日ですので、今日はその内容を詰めるヘビーな一日。

NCはビンナガやメカジキについても話し合われますが、今日も依然として議題の中心は太平洋クロマグロ。今年こそ超えたいと多くの参加者が共有する最低限ラインを今年もなかなか超えられない議論が続き、私はもちろん、多くの参加者がストレスを感じています。と言うのも、この会議は他のWCPFC関連の会議同様、決定にコンセンサスを要するので、一カ国でも反対する政府代表がいると、何も決まらない状態になってしまうのです。これまで何度も、せっかく各国から集まってもコンセンサスを得ることに失敗し効果的な対策を何も打ち出せないまま乱暴な漁業を放置してきた過去があります。

今年こそ超えたい最低限ラインとは、昨日のブログでもお伝えした、例外措置の排除と、未成魚の漁業規制強化。これまで例外措置が適応されてきたのは日本の零細漁業と韓国の漁業で、日本政府は例外措置の排除は必要と腹を決めていますが、はたして明日の閉幕までに会場のコンセンサスを得てまとめることができるでしょうか。

太平洋クロマグロの保護・管理について話し合うこのNCで、日本は議長国を務め、政府代表もとても積極的に例外措置の排除と未成魚の漁業規制強化を押し出しています。建設的に会議を前へ進め、長期資源回復計画の策定にもとても前向きです。果たしてその背景にあるモノとは?

太平洋クロマグロ、世界で獲られる80%を日本が漁獲・消費

太平洋クロマグロは、日本の他にも、メキシコ、韓国、台湾、米国等の漁船により獲られていますが、世界の総漁獲量の約80%は、同種の主な産卵海域を近海に持つ日本の漁業によるものです。この漁業が持続的なものとは程遠く、昨日のブログでお伝えした通り、大量の未成魚を漁獲してしまっています。もし太平洋クロマグロ資源が枯渇してしまえば、「日本が獲り尽くした」と言われても仕方のない状態なのです。日本は太平洋クロマグロの一大漁業国としての重い責任があり、なんとしても資源回復を先導し果たさなくてはならない立場にあります。

その日本政府、暫定的に未成魚の漁獲を15%削減するとする提案はまだ十分なものとは言えませんが、前述の例外措置の排除や長期資源回復計画の策定に積極的に取り組む姿勢などには、数年前と大きく異なり、一定の評価と大きな期待が寄せられます。

日本が太平洋クロマグロの保護・管理において重い責任を背負うもう一つの理由は、その莫大な消費量にあります。日本は世界のマグロ類総漁獲量の3分の1から4分の1を消費するマグロ市場大国で、特に刺身マグロにおいては世界市場の約80%を占める世界一の消費国。その日本食を代表する寿司の花形とされる太平洋クロマグロは、世界総漁獲量の約80%が世界人口の2%に満たない日本で消費されています。

初日のブログでもお伝えした通り、そもそも乱獲の背景には「クロマグロでもなんでも安く気軽に食べたい」という作り出された消費者の需要があります。全国展開するスーパーマーケットや回転寿司店などが太平洋クロマグロを安価で大量に取扱うようになったことが、まき網などによる乱獲を進め、大量の未成魚を自然界から奪う養殖ビジネスを拡大させる引き金となりました。クリーンピースは国内の食卓に上る魚介類の約70%を販売するスーパーマーケット業界の大手5社(イオン、西友、ダイエー、ユニー、西友)等と持続可能な魚介類の調達方針の策定に向け対話を続けていますが、そのマグロ調達に短期利益よりも持続性を優先した改善は、まだ見られません。日本の漁業管理は日本政府が主導し漁業関係者が協力しWCPFC-NCのような場で少しずつ進んでいる一方で、国内の流通に関してはまだどこも、持続可能性の確保に向けた本格的な取り組みを行っていないのです。

続けられてきた乱暴な漁業・流通・消費により、今や太平洋クロマグロの資源状態は、長期的な資源回復計画を実施し、資源回復の明確な兆しがみられるまでは、一時的に完全禁漁にすべきレベルにあるとグリーンピースは考えます。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)では、世界総漁獲量の約98%が日本で消費されるミナミマグロは「絶滅寸前(CR)」、約80%が日本で消費される大西洋クロマグロも「絶滅危惧種(EN)」とされています。世界から日本に一極集中するマグロ類はその乱暴な漁業・流通・消費により、次々と絶滅に追い込まれていく実態があります。このままでは残念ながら、太平洋クロマグロもすぐに絶滅危惧種に指定されるようになるでしょう。ウナギの様に、あと数年で食べられなくなる状態に陥ってしまうかもしれません。

さて、明日はいよいよ最終日。果たして太平洋クロマグロを次世代に残せるような結果は出るでしょうか。会議が終わり次第、このブログでレポートします。

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